そして夜、

一つの区画に7人もの人が押し込まれた寝床で、
浅い眠りを繰り返し、やがて静かに夜は更けていった。
そして深夜1時過ぎ、再び小屋には喧騒が戻ってくる。

登山者たちは山頂でご来光を見るため準備をはじめるのだ。
下からも、8合目、7合目で宿泊した登山者たちが続々と登ってくる。


そんななか我々は、まだ小屋の中で悠々と寛いでいた。
そう、僕たちは計画段階ですでにご来光をすっぱりあきらめていたのだ。
理由は、夜間の一番気温の低くなる時間帯に無理に移動したくなかったこと。

「ご来光を見るために大量の人が登ってくるため、自分の体が温まるような
スピードでは登れない。ましてそんなときに雨が降ってきたら最悪だ」


いつもの職場登山隊の先輩の助言だった。


午前2時過ぎ、空は晴れている、おそらく雨の心配はないだろう。
この天気ならば、今登り始めればご来光が見れるかもしれない。


僕は迷った。

このコンディションなら、計画を変更し、登ってもいいのではないか?
ここまできて天気に恵まれるというのも、そんなに無いことかもしれない。
富士登山者の誰も見たいと思うご来光。
むしろご来光を見るために登る者もいるという。


しかし、メンバーの中には、防寒着が万全でない者もいる。
それに、今回の目的は無理をしてご来光をみることでなく、
3人で最初から最後までいっしょに行動し、
楽しく山頂を踏み、無事下山することだ。

寒い中無理に登って誰か一人でも頭がいたくなったりしたら、
山頂は踏めなくなる。


やはりここは朝までぬくぬくと休んでおこう。

そして夜が明けた。

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